御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~
「下まで送るよ」
始も立ち上がって湊の先回りをしてドアを開ける。
「いいですって言っても……」
「俺、人を見送るって作業が結構好きなんだよね」
「そうですか……すごく今さらですけど、そんなに気を使って本当に疲れないんです?」
エレベータ―に乗り込んで一階のエントランスへと降りる。
「こういう生き方をしてきたから、仕方ないねぇ。気を使っているという意識もないし。俺は周りの人間、みんなが好きだし~」
アハハと笑う始に、湊は一瞬なにか言いたそうに眼鏡の奥の目を見開いたが、結局軽く肩をすくめただけだった。
山邑リゾート本社の一階エントランスに降りると、すでに退社時間を一時間ほど過ぎていたせいか、ガランとしていた。
一応明かりはついているが、それだけだ。
「びっくりするほど人がいませんね」
湊が驚いたように周囲を見回す。
彼の勤めるエール化粧品は二十四時間ビルに明かりがついている部署もある。
「うちはマジで残業しなくていいって言ってるから。早く仕事を終えて帰ったほうが得だしエライ!ってことになってる」
「それは羨ましいです」