風薫る
「うん、何? くーろせくん」

「……うん、やめようね」

「えええ、私は好きなんだけれどな。くーろ……っ!」


木戸さんの言が途切れたのは、遮るべく俺が手を掴んだから。


何気ないただの仕草で、本気度が伝わればいいなあ、くらいの軽い考えだった。


……ええと。あれ、嘘。え。


まさか、木戸さんがこんな真っ赤な顔して固まるなんて思ってもみなかった。


「……ごめん。でも、やめてね」

「う、ん……しつこかったよね、私こそごめんね」

「うん。ありがとう」


パっと手を離すと、木戸さんは深く俯いてしまった。


「とりあえず、叩くのは図書室で三回にしよう」

「…………」

「木戸さん?」


木戸さん、おーい、木戸さん、と呼びかけるも、返答はなし。


俺に手を掴まれたことが、そんなにショックだったのだろうか。


違うと信じたいけど、もし懸念が当たっていたら結構悲しい。

……嘘。


訂正する。辛くてちょっと立ち直れないかもしれない。


汗臭かったかな。汗かいてないはずなんだけどな。


ぐるぐる蛇行する頭の中はかぶりを振って落ち着かせて、木戸さん、ともう一度呼ぶ。
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