風薫る
えっと、が揃う。


思わず少し肩が跳ねて、慌てて無意識のうちに横を向いた。ほとんど同時だった。


木戸さんが口火を切る。


「図書室で三回がいいな、私」

「うん」


じゃあそうしようか、と言うと、大きく頷いてくれた。


俺も木戸さんも話すときには相手を見るので、朱に一刷毛染まった頬はお互いに知らんぷりをする。


「図書室を三と数えるか、四と数えるかは、世間では議論が交わされるかもしれないけれど」


言葉を慎重に選びながら、木戸さんが真面目な表情で俺を見つめた。


「うん」

「私たちの決まりでは三回、ってことでどうかな」

「そうだね、そうしようか」

「うん」


一呼吸置いて。


あのね、と照れたように。

はにかんだ微笑みが浮かぶ。


「黒瀬君とのルールなら、私、絶対間違えないと思うの」

「っ」

「だから、よかった。黒瀬君が了承してくれてよかった」


ありがとう、と、そんなことを笑顔で言うのはずるい。


……反則だ。
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