風薫る
振り返った先でゆっくり目が合って、二人で破顔する。


「成功だね」

「うん」


三回で本格的に決定だ。


「そうと決まれば、俺も練習しないとね」


おどけて言って立ち上がる。


「木戸さん、練習相手してくれる?」


椅子を座りやすいように引いて示すと、木戸さんは笑って請け負ってくれた。


「ご指名とあらば、何度でもお相手いたしますよ」


優雅な一礼付きである。


茶目っ気たっぷりに返されて、よし負けない、などと余計な闘志を燃やす俺。


期待に応えて、これは何かしないと。


どうしようかな、と奸計に耽る。


もちろん、悪巧みとはいっても、ほんの小さな悪戯を仕掛けるだけ。


それでも、安全で、時間がかからなくて、びっくりしてくれたら成功、という条件だと、できる行動は一気に狭まる。


熟慮の結果、目星をつけながら蔵書を借りてきて、木戸さんの元へ行く。


慎重に、とん、とん、とん、と木戸さんの右肩に手を置いた。
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