風薫る
「分かった。練習しよう」

「うん」


三回って決めたはいいものの、やってみないと分からないこともあるし、試してみた方がいいだろう。


タイミングとか、振り返ったときの距離を鑑みてどこに立てばいいかとか、そういうことを分かっておいた方がいい。多分。きっと。


ちょっと待っててね、と早足に本棚の陰に消えた木戸さんが、手早く蔵書を借りているらしい。司書さんとの話し声が聞こえる。


ええと、驚いてぼうっとしているわけにもいかない。


俺は窓の外を眺めている必要がある。

つまりは俺は、木戸さんがやって来るのを待っている必要があるのだ。


取り決めた通り、三回肩を叩かれたら振り返ればいい。


足音が次第に近づいている。


まだだ。振り向きたくなるのをやり過ごして、静かに待機。


……まだか、まだなのか。


何をするのか予想がつくと、待ち時間って妙に長くなる。


果たして。

とんとんとん、と右肩で三回跳ねた指先に、誘われるままに顔を上げた。
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