Sweet Love
***



「あーもう、今日は疲れたっ。足痛い」



 山頂の大きなログハウスでお弁当を食べ終えたわたし達は、帰るまでまだ時間があるため、木目調の丸いテーブルを四人で囲みながら、ゆっくりと雑談を交わしていた。



「靴擦れ起こしてるんじゃない? …ちょっと見せてみ」



 牧原くんは、気に掛ける声で裕子の足元を見下ろす。



 ――牧原くんって、なかなか優しいじゃん…。

 普段裕子には冷たくされているのに、何であんなに紳士的なんだろう。



 わたしはてっきり、裕子は牧原くんを好きなのだと思っていた。気になって、あのあとこっそり本人に訊いてみたけれど、彼女は全否定していたので、そういう対象としては見ていないらしい。


 わたしは裕子と牧原くんを見つめながら、以前話していた、萩原くんの言葉を思い返していた。


 彼は言った。裕子にとって、気になる存在になっているのは確かだと。


 もし彼女が、実は牧原くんのことを少しでも気にしているのなら――。


 萩原くんって相当、洞察力あると思う。裕子の本心はわからないけど、人の見えない部分をそうやって見抜こうとするのは凄いことだ。


 わたしはちらっと、萩原くんを横目で見た。



「…何?」



 こんなに早くこちらの視線に気付かれると思わなかったわたしは、瞬時に目を逸らす。



「な、何でもないよ…」



 ――それよりも、何かが変だ。何だか、…急にお腹が痛くなってきた気がする。



 突然襲い掛かってきた腹痛に、わたしは顔を顰めた。お腹を擦りながら、絞られるような激痛に耐え抜こうと努力する。



 ひょっとして、お弁当のせい? 食中毒とか?

 ――でもでも、お弁当作ったのはお母さんだし。

 お母さんに限ってそんなことあるわけ――ま、ま、まさか、お弁当作ったの兄ちゃんじゃないよね…?

 兄ちゃんまさか、わたしのお弁当に何か仕組んだんじゃ……。



 次から次へと、くだらない考えが頭を過る。
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