Sweet Love
 髪の毛先を指ですくい取りながら、朱菜ちゃんは言った。



「翔くん、元気ですか?」

「…うん…元気」

「そうですか。それならよかった」

「……」

「わたしと距離を置いている間、翔くんと何か、進展はありましたか?」

「な、ない…よ」



 距離を置いている間を利用して、自分から行動を起こすなんてそんなこと…できるはずがない。度胸も無いのにもしそんなことをしてしまえば、きっと彼女は、またわたしを懲らしめるに決まってる。それをわかっているのに、そんなこと、…するはずがない。


 事実上、やましいことなど何ひとつないのに、額からは汗が滲み出る。わたしは、何かまたされるのではないかと念のため踏まえ、後退して身構えた。


 だがそのとき、彼女の口からは、思いもよらない言葉が発せられた。



「昨日翔くんに、…別れようって言われちゃいました」



 思わずわたしは、目を瞬かせる。



「え、…どうして?」

「……好きな人ができたと言われました」



 …好きな人って…。



「わたしと付き合っている間に他の人を好きになるなんて、酷いですよね」



  朱菜ちゃんは、弱々しく笑いながら淡々と喋り続けた。



「石田さん、わたしが翔くんに告白しているところ、…見たことあるでしょう?」



 ――どうして知ってるの…?



「み、…見たけど、あれは興味本位じゃなくて…」



 どうしよう、…どう言い訳したらいいのだろう。言葉に詰まったわたしは、何も言えなくなった。



「わたしがどうして翔くんに告白したのか、知りたいとは思わない?」



 非難されるかと思ったら、彼女はそのことに対して責めたりはして来なかった。でも告白した理由は気になる。きっと、何か深い訳があるのかも知れない。わたしは首を縦に振った。
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