Sweet Love
 もし、わたしがこの高校に入っていなければ、朱菜ちゃんはきっと幸せだったのかも知れない。覚えていないって本人に言われて、傷付いてショックだったかも知れないけれど、それでも朱菜ちゃんは、また萩原くんと再会できて、心の奥底から嬉しかったのだと思う。



「…石田、何で泣いてるの」



 萩原くんの指が、わたしの涙をすくい上げた。



「…なんでもない」



 彼はポケットに手を入れる。何か取り出そうとしていた。



「ん」

「ありがとう…」



 渡してくれたのは、紺のチェックのなんとも大人っぽいハンカチだった。



「言っとくけど、それで鼻水は拭くなよ…」



 ――えっ…。



「…ちゃんと洗って、返すもん」



 わたしが膨れっ面になると、萩原くんは優しく微笑んだ。



「鼻水は…ティッシュで」



 そう言いながら、萩原くんはまたポケットに手を入れ、今度はポケットティッシュを取り出した。



「…ごめん」



 ――そういうの…きちんと用意しちゃって…萩原くんって準備いい…。
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