Sweet Love
「麗美ぃーー!」



 少し離れた場所から、わたしを呼ぶ裕子の声が聞こえた。


 声がした方に視線を巡らせると、裕子と牧原くんが両手に缶ジュースを持ちながら、こちらに向かって走って来るのが見えた。



「…あの二人って、本当に仲良いよな」



 萩原くんが、こっそり耳打ちしてきた。



「ね…」



 確かに、わたしもそう思う。何だかんだ言って、あの二人はいつも一緒に居る。


 それよりも、萩原くんの声のトーンがいつもより低くて、わたしは少しドキッとしたけれど。



「麗美、…大丈夫?」

「うん。少しお腹痛かっただけ」



 裕子と牧原くんは、ログテーブルの上に缶ジュースを置いて並べた。



「だからトイレ行ってたんだね。急に居なくなるから、びっくりしたよ。麗美、…もしかして泣いてた…?」

「萩原が泣かしたんじゃないの」



 牧原くんが冗談混じりにそう言うと、二人の視線が一気に萩原くんに集中する。



「…ちょ、ちょっと待って。違うよ、萩原くんは関係ないよ」

「俺は、何もしてないぞ。石田は、……具合悪いんだ。そっとしといてやれよ」

「萩原、お前…」



 真剣な眼差しで、萩原くんを見る牧原くん。


 …何だろう。


 だが、牧原くんはなかなか続きを言わない。じれったさを感じたのか、萩原くんは言った。



「何だ…?」

「…いや、なんでもない」

「………? ……牧原、お前さ…」



 萩原くんは、にやりと意地悪な笑みを浮かべた。



「何。何だよ」

「……なんでもない」



 片手で頬杖をついていたわたしの肘が、思わずテーブルから外れた。



 何なの…この二人…。

 何これ、…ショートコントでもしてるの…?



 訴えかけるように裕子に視線を移すと、わたしと同様、彼女もどうやらこの会話の意味はわかっていないようだった。


 裕子は、不審な目で二人を見ている。



 ―― 多分裕子は、わたしと同じこと思ってるんだろうな。



「…あんたら、さっきから何言ってんの」



 裕子が冷めた目で萩原くん達を見る。



「いや、別に」
「いや、別に」



 と、同時に二人の声が被った。二人は澄まし顔で何事もなかった風に缶ジュースを引き寄せた。
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