Sweet Love
 ――萩原くんのアドレスが…手に…入った…。



 それだけで、心の奥底から嬉しく思う。ジャンプして飛び跳ねたいところだけれど、流石に彼の前でそれはできない。この喜びは胸の中で留めておく。


 頬が緩みそうになったが、ぐっと堪えた。



「あ、ありがと」



 気を引き締め、携帯を萩原くんに返す。顔を強張らせていたためか、彼はわたしの顔を心配そうに覗き込んだ。



「お腹、…大丈夫?」

「うん、さっきよりはマシかも」

「家帰ったら、ゆっくり休めよ」

「…うん。あ、帰ったら写真送るね」

「わかった。…いつでもいいから」



 今日は少しだけ、萩原くんに近付けた気がする。いつもより沢山会話もできたし、何より彼のアドレスが手に入った。わたしはきっと舞い上がっているのだと思う。興奮して手が付けられないように、周りが見えなくなっている。



「石田。ちょっと、手出して」

「え?」



 わたしは、言われた通りに両手を広げて前に出した。彼はポケットに手を入れ、何か取り出す。


 萩原くんは手をグーに握ったまま、わたしの手の上に移動し、それを落とした。



「あ、これ…」



 キャラメルだ。



「最後の一個。石田にあげる」



 と言いながら、彼は顔を綻ばせる。わたしは頬を緩めた。



 ――キュン死にしそう…。



「ありがとう…」



 だんだん顔が火照っていくのが自分でもわかる。たったそれだけのことでも、わたしにとっては一番重要で、大事なことで、嬉しくて堪らない。



「今まで、ポケットに入れてたから俺の体温でもしかしたら、…柔いかも」

「……いいよ」



 そんなの、…良いに決まってる。



「まあ、歯に詰め物してたら、柔い方がいいだろ」

「……」



 …萩原くん。わたし、…虫歯なんてなったことないよ。



 内心で突っ込みながら、わたしは苦笑した。
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