ひとりぼっちの夜は、君と明日を探しにいく
「多分ここが詩月の家があったところだと思う」
ロープの前で立ち尽くす詩月に言った。
記憶の中にある安田さんが通ってきた道を歩いてきたから間違いない。それに詩月が火事の現場を見て立っていた場所もここだ。
詩月はざわざわと揺れる周りの木々を見つめて、この場所から聞こえる様々な音に耳をすませた。
「うん。俺もここだと思う」
頭は忘れていても体のどこかがきっと覚えている。
なにかに導かれるように詩月はロープの中へと入っていった。跡形もなくなった家の形。足元の土は黒く変色していて小石が焼けていた。
なにがあったのか。
それを私たちは知らなければいけない。
詩月に続くように私も中へと入った。
詩月の思い出のものはないもないけれど、焼け跡に残る家の残留思念。ここに立っているだけで誰かの想いを強く感じる。
私はそっと黒い土に触った。僅かだけど映像が流れてくる感覚がしてこれなら大丈夫。
「詩月、手を……」
左手を差し出すと私の指先がゆっくりと止まった。
詩月の顔、詩月の視線、詩月の心。その家があった場所に立つ詩月は私の知っていた〝詩月世那〟ではなかった。
瞳から流れ落ちる涙。
ずっと思っていた。カメレオンのように表情を変えるきみの本当の顔はどれなんだろうと。
きみがなくした記憶に、本当のきみに私も触れたい。
詩月の頬を伝う涙を右手でそっとなぞった。
痛いほどの電気が身体中に走って、私の心は詩月と一体化した。