君が思い出になる前に…
「うん。だから、別の違うおれたちに原因がある以上、おれたちが何かをしても無駄な事なんじゃないかって。結局、元の世界に戻るなんてできないって事。同じ道を辿っても、きっと同じ未来には辿り着けないと思うんだ。何かをしようとすれば、必然的に未来が変わってしまう。なにもしなくても、同じ未来にはならないんじゃないだろうか。そこには、違う自分がいるから」「つまりこのまま戻れないって事ね?」「うん。断言はできないよ。あくまでも…。けど、それがおれなりに出した結論なの。またお互い、15歳からやり直しって事になるんだよ」「うん。なんとなくわかる気がする。主役はあたしじゃなかったって事なのね。数ある中のひとり…、もしかしたらエキストラのひとりっていう可能性もある訳よね」
紀子が笑ってみせた。
「そういう事…、なんだと思う。だからこの世界にいていいんだと思うよ。何も変えられないんだから。もう一度15歳からやり直しなんだ」「うん、そうね。わかった。ありがとう…。でもあたし、やり直しじゃないんだよね。もう未来の記憶が、かなり無くなってきてるから…。新たな青春よ、これからの時間は、全部新しい道になるの!」
にこっと微笑んで紀子が言った。
「そうか…。記憶無くなってきてるのか…。おれもいずれそうなるんだな…」
「未来なんて知らない方がいいじゃない?良いにせよ、悪いにせよ。その方がずっと楽しいと思うんだけど」
「そうだね、加賀の言う通りだよ。先の事なんて、知らない方が幸せだよね」
納得したのは、おれの方だった。


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