君が思い出になる前に…
今、紅茶を口にふくんでなくてよかった。もし口ん中に入っていたら、大変な騒ぎになってたよ。
「あなたが、他の何かを目指して頑張ってるんなら、無理にとは言わないけどね…」
母さんが紅茶のカップを口に運びながらそう言った。
医者以上の目指すものってなんですか?弁護士とか?
旅客機のパイロットとか?
今のおれには、全然想像つかないよ。
ここの世界にいた『元宮祐作』は、凄いやつだったんだなぁ…。
違う世界の自分の事ながら劣等感を感じてしまう。妙な気分…。
「まぁ、慌てて決める事でもないし、まずは鳴醒、だね」
ケーキをおいしそうに食べながら姉さんが言った。
「そうよね、そうだわよね」
また母さん、姉さんの後に言う…。
不思議な親子だ…。
鳴醒か…。それに医者…。なれるものなら、なってみたいね。
こういう会話を普通にする家庭。本当にあるんだなぁ…。
昔なら全く想像もしなかった。
このままこの世界にいたら、本当にそうなるんだろうか…。ほんの少しだが、興味が湧いてきた。
だけど、そうなると本当におれの歩んできた30年は、無意味なものになってしまう。
時間はおれに何をさせようとしてるんだろう…。
医者になる事がおれの使命なんだろうか…。
まさか…ね…。
有り得ない…。
そんな事…。


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