君が思い出になる前に…
「なぁに?ある事って…」
絵美が聞いた。
「この世界に来た日のお昼休みの事なんだけど、君からパンを貰った日。覚えてる?」
「うん…」
「あの後、加賀が校庭で男子生徒と衝突して怪我をするのを15年前に一度見てたんだ。それに気づいて、おれが直前に事故を回避したんだけどね…」
「15年前には怪我してたの?」
「うん…。おれの記憶の中では…。怪我をして、医務室に連れて行かれた」
「校庭に行ってたって、言った時ね?」「うん…。そう」
「加賀さんは、なんで怪我をするってわからなったの?本当に未来から来たんなら、過去の事は知ってるんじゃない?」「そこなんだ…。おれと加賀との間に疑問が湧いたのは」
「疑問?」
「加賀とおれの15年前の記憶に少しズレがあるんだ」
「ズレ?」
「うん…。加賀の記憶では、事故なんてなかったって…」
「どういう事なんだろ…」
少し絵美の様子が変わってきた。
真剣に聞いてくれてる。
「ひとつ、考えられる事があるんだ。それは…」
「なぁに?」
絵美が少し身を乗り出したように見えた。
「パラレルワールドって事…」
「パラレルワールド…?聞いた事あるわよ」
「ホント?」
意外な答えに驚いたおれ。
「うん。詳しくはよくわかんないけど、物理学の世界では昔から考えられてたらしいわよ。ちゃんとした学問だって。量子力学だったか、多世界解釈とか言って、宇宙論の中でも、そういう事がたくさん考えられてるって」
「く、詳しいんだねぇ…」
少したじろいで、更に驚いたおれ。
「あたしね、SFって好きなの。小松左京の『戦争はなかった』とか、『果てしなき流れの果てに』なんかで、パラレルワールドの事が書かれてた。筒井康隆の本にもあるわ。小松左京もそう。でも現実に起きたって事が信じられないけど…」「そのSFがおれと加賀の身に起こったんだよ…」
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