君が思い出になる前に…
決心
 絵美がロンドンに留学する…。
この場所からいなくなる。
そんな事、想像すらしなかった。

15年前は、おれと紀子が偶然一緒に帰るところを見られて、一方的に交際をやめてしまった絵美。
誤解から生じた別れだった。
別れたあと、絵美が中学を卒業してから、留学していたなんて、おれの記憶の中にはまるで無かった。
気にも止めていなかったと言った方が正しいかもしれない。意外と冷めていた。

海に行った帰り、絵美と別れたあと、ひとりになった途端、急に寂しさが込み上げてきた。
どうしていいのか、分からない衝動。
絵美から聞かされた事が頭の中をグルグル駆け巡る。


「姉さん、絵美、留学するって知ってたの?」
居間でくつろぐ姉さんに話しかけた。
「あ~、絵美ちゃんも一緒に行くんだってね?」
「だから、知ってたの?」
「今朝聞いた…。あんたが、起きてくる前に」
「そっか…」
「何よ、そんな顔して。帰ってこない訳じゃないんだからさぁ~。落ち込んでないで、元気出しなさいよ」
「別に落ち込んでなんか…、いないよ」誰が見ても落ち込んでるんだろうな…。今のおれ。


部屋にこもった。
祐作、よく考えろよ。
15年前には、あと数週間で終わってしまう恋なんだ。
その後は気にも止めなかったんだろ…。で、おれは北高に進学。
その頃にはすっかり絵美の事なんて忘れてたくせに…。
都合のいい奴…。
この世界じゃ、絵美に惚れられて始まってるんだぜ…。
根本的に違ってるじゃないか。
今日だって、本当に楽しかったのか?
おれに気を使って、色々してくれたのは、絵美の方だろ。
お前、いくつなんだよ…。
30だろ?外見は15歳でも30年生きてきたのは事実だろ?
それなのに、なにやってんだよ…。
ここはお前の世界じゃないんだよ。
なにをそんなに心頭してるんだよ。
情けない。
情けない。
情けない…。
絵美が留学したっていいじゃないか。
喜んで送り出してやるのが、大人なんじゃないのか?
『待ってる…』
とか、女々しい事言って。
この世界にいる事すら覚悟できてないくせに。

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