こじらせカップルに愛の手を
私は佐伯からパッと顔を背け、急いで涙を引っ込めた。
「何か用?」
「いや。おまえが部長のとこにでも頼みに行きそうな勢いだったから」
「行く訳ないでしょ! もう、諦めたからいいよ」
咄嗟に嘘をついてしまった。
すると、「そっか」と佐伯がホッとした顔を見せた。
「それだけ?」
「あー、いや、それとさ…。この間は」
「佐伯さん! ここにいたんですね」
話しの途中で、橋口さんが現れた。
「ん? どうした? 橋口」
「あ、はい。午後から一緒に回って欲しい先があるんですけど…。いいですか~?」
橋口さんはワンオクターブ高い声を出しながら、上目遣いににこりと微笑んだ。
彼女は女の武器を全て使う。
胸元は大胆に開けてあるし、スカートだってかなり短い。いつも色気のないパンツスーツの私とは大違い。
「いいよ。どこ?」
だから、佐伯も彼女を特別扱いだ。
「桜高校の購買担当の方なんですけど、ご挨拶したら話を聞いて下さるそうで」
「了解。あ、じゃあ。加藤、悪いけど、そういうことだから先いくな」
「どーぞ」
別に私にお構いなく、可愛い橋口さんとどこへでも行っちゃって下さいよ。
思わずそう口走ってしまいそうになるほど、私はすっかりやさぐれていた。
「あっ、も~佐伯さん。ネクタイが大変なことになってるじゃないですか~」
「あー、やっぱり?」
「どうしてこんなことになっちゃってるんですか~?」
そんな会話と共に笑い声が聞こえてきて、更に胸がズキズキと痛んだ。