リアル☆タイムスリップ
『とりあえず、土方の目のないところへ移動しよう』

 中には入らないといけない。
 それだけでも危険だが、おそらくもう大分斬り捨てられたはず。

『正宗。蜥蜴丸は持っておらぬのか?』

「だって町人が大刀なんて持ってたらおかしい」

『むむ、もっともじゃ。じゃあわしを抜け』

 蛍丸に言われ、正宗は腰の脇差を抜いた。

『抜いておれば、とりあえずは格好になるじゃろう』

 後戻りできない以上、内部に踏み込まねばならない。
 中に入ると、途端にむっとした異様な臭いが鼻をついた。

---これは……---

 中は血の海だ。
 現代で普通に暮らしていれば、およそ出会うことのないであろう凄惨な場面が目に飛び込んでくる。

 この臭いは血の臭いだ。
 濃厚な血の臭いというものを、初めて嗅いだ。

 正宗は足元に散らばる肉塊を、できるだけ目に入れないよう、そろそろと端へ寄った。
 胃の中のものがせり上がってくる。

 恐怖と血の臭いと汗の臭い。
 暑さも手伝って、頭がまともに働かない。

「……息ができない……」

 ふら、と壁に手をついた途端、いきなり鼻先に槍が突き刺さった。

「うおおおおお!!」

 正宗に向かって、男が引き抜いた槍を振り被った。

---無理だ、こんなの---

 剣術などしたこともない。
 殴り合いすら経験することなど稀だ。
 そんな現代もやしっ子が、志を持った志士に敵うはずがない。

 けど---。

「嫌だっ!!」

 槍が頭に突き刺さる瞬間、強く思った。
 が、身体が動いたわけではない。

 ふ、とそのまま、正宗は気を失った。
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