リアル☆タイムスリップ
「で、では」

 先に手を伸ばしていたので引っ込みがつかなくなり、仕方なく正宗は錦の袋を掴んだ。
 しゅるりと口を縛っていた紐を解き、柄を出す。

「ぬ、抜きますか?」

「そ、そうですねぇ……」

 二人とも腰が引けている。
 正宗の手にあるのは、蛍丸よりも長い大刀だ。
 そんなもの抜いたことはない。

『正宗、気を付けろよ。大刀は素人が抜くと、長さがわからず足とか傷付けるぞ』

「あ、なるほど」

 蛍丸の助言に従い、正宗は立ち上がって腕を前方に伸ばした。

『格好悪いが、まぁ良かろう』

 怪訝な顔をする宮司の前で、すらりと鞘を払う。

「おお……」

 宮司も正宗も、自然に声が漏れた。
 現れたのは青光りする刀身。
 虫取り窓からの僅かな明かりを跳ねて、妖しい光を放っている。

「……凄い……」

 細身の刀身に、大乱れの刃紋が浮き上がっている。

「えっと、これは……」

 美し過ぎる刀身に、何か寒気を覚え、正宗は目を冊子に落とした。

「刀一振り……蜥蜴丸(とかげまる)……?」

『げっ』

 斜め上で、蛍丸が仰け反った。
 え、と見ると、宮司の身体がぐらりと揺れた。

「えっ、あの、宮司さん」

 驚いて声をかけようとしたが、正宗の視界もぐるりと回る。

『おいっ正宗!』

 蛍丸の声が聞こえる。
 大丈夫、蛍丸の本身は、ちゃんと腰にある。

 そう思った途端安心し、同時に意識がぶつんと途切れた。
< 9 / 54 >

この作品をシェア

pagetop