王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です


国王の毒殺未遂に震撼したオアーブル宮殿も、それから一ヶ月が経ちようやく平穏な日常を取り戻しつつあった。

メイベルはギルバートの審判通り流刑に処せられ、メーク島の教会で身を費やし生きている。ギルバートの殺害は未遂だったとはいえ、彼女はファニーという無関係の少女を殺しているのだ。その罪は一生をかけて償うべきものだろう。

劣悪ともいえる環境で労働と懺悔に若き身を投じることは過酷だ。けれど、愛し合う人がそばにいるのなら、いつの日かメイベルにもエリオットにも笑顔になれる奇跡が訪れるはずだ。リリアンはそう信じ、あの日からメイベルの幸福をずっと祈り続けている。



そして、一方のギルバートと言えば——。

「リリーが作ってくれたケーキがいい。じゃないと食べないよ」

「もう、ギルってばワガママ言わないの。同じ人参じゃない。せっかく獲り立てをシェフがサラダにしてくれたんだから、残さず食べなさい」

「じゃあ、口移しで食べさせてよ」

リリアンへの甘えはますます増長する一方だ。子供より手の掛かる国王に、リリアンは眉尻を下げてハーッと大きく溜息を吐き出してしまう。

しかし、ギルバートにもあの事件以来変化があった。

会談などでの彼の物腰はだいぶ柔らかになったと評判だ。かつて反目していた国や組織に対してもあからさまに敵意を剥き出しにすることはなくなったし、新たな友好関係を築こうという努力も見える。

それに加え、彼はリリアンにこそ甘えたわがままを言えど、以前のように公私混同し政務に影響を及ぼすような真似はしなくなった。決められた休憩時間や一緒の食事時間のみに、目いっぱい甘ったれている。

ギルバートは特に何も言わなかったけれど、メイベルとエリオットの話を知って彼なりに考えることがあったのだろう。

エリオット自身は王位に執着していないようだったが、それでももし彼の方が王座についていたのなら、あのような悲劇は起きなかったに違いない。

エリオットに対してもメイベルに対しても、ギルバートが申し訳なさを感じる必要はない。けれど、王座を勝ち得た者は敗者に誇れる背中を見せる義務がある。敗者に敗者たる運命を受けいれさせるために。

ギルバートもその重みを目の当たりにして勝者の運命を背負う覚悟を決めたのだろう。王として高潔に生きることこそが、敗者への最大の慈悲になると気づいて。
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