春の円舞曲
あっという間に全身の肌を桃色に染めた少年に、琥珀は悪戯っぽく微笑んだ。
「可愛いなぁ…神様に攫われてしまいそうだ。」
「ぼくが?何故?」
「昔から、神様は美しいものが好きなのさ。」
「琥珀の方が綺麗だよ。」
「ふふ。有難う、では御礼に一曲。」
魔法使いみたいだ、と水仙は思った。
琥珀が一礼して銀幕をくるり取り払うと、そこにピアノが現れた。表は艶々の黒曜石。水仙が拍手をすると、手と手の間から次々と星が溢れ落ちた。
「春の円舞曲。」
そう言って琥珀が弾いたのは、水仙が一度も耳にした事のない音楽だった。
春告鳥の囀り、雪融けの音、春一番。
八重桜の紅、蒲公英の黄、若竹の緑。
彼の指先から春の景色がいくつも生み出され、虹色の虫達は三拍子を踏む。
それはまさに、春。
色彩と生命の大乱舞だった。
「もう一回!」
琥珀の見せてくれる景色が素晴らしすぎて、水仙は何度もアンコオルをした。
やがて疲れて、眠るまで。
「…残念。もう少し、一緒にいたかったけれど。」
夢の中で繰り返される甘い調べは耳に深く刻まれ、やがて水仙の胎内に宿った。
「さよなら、水仙。」