鬼が往く
紗智は苛立つ。

「1人で何が出来るの?相手は関西最大規模の広域暴力団なのよ?1万人が貴方の命を狙ってるのよ?東京のちっぽけな街を縄張りにしているチンピラの貴方に、勝ち目があると思ってるの?」

「…おい」

銀二は紗智の胸倉を摑んだ。

「ちっぽけな街?テメェら警察の言いそうなこった…テメェらがそういう認識だから、俺が1人で気張ってるんだろうが…二度と言うんじゃねぇ」

紗智を突き放し、銀二は缶を投げ捨てた。

…彼は氷室町を愛している。

こんな暴力と犯罪に塗れた街でも、恐らくは誰よりも、何よりも愛している。

だからこそ、明石組が進出し、力尽くで侵攻していくのが許せないのだ。

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