鬼が往く
椎名の暴言を、根津は黙って聞いていた。

…当初の予想より長引く抗争。

最近になって、この抗争が長引く理由は、そもそもが椎名が銀二に不甲斐なくやられてしまうからだという声が構成員の間に密かに囁かれていた。

この抗争が始まる以前より、椎名は若頭の地位を利用し、組を私物化しているという声も、多くの幹部から聞かれている。

それ故に、今回の抗争で万が一明石組が敗北するような事があれば、椎名の組内での立場はより一層危ういものとなってしまう。

彼はそれを危惧しているのだ。

…根津も、椎名の事はよく思っていない。

しかし彼は頭のいい男だ。

椎名を恐れている訳ではないが、ここで事を荒立てる事が得策ではないと理解している。

銀二を早急に潰す事を念押しされ、根津は池袋支部を後にするのだった。

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