秘書と野獣
ようやくそこから離れたと思った顔はすぐ目の前に現れ、今度は噛みつくようにして唇を貪られる。
「名前を呼べよ」
「……っえ…?」
「猛。俺の名前を呼べ」
「……っ」
何度そう夢見ただろう。
他の女性が呼ぶように、私もあなたの名を呼ぶことが出来たらと、何度。
「……たけ…る…」
「聞こえねぇ。もっとちゃんと呼べ」
「っ、たけ、る……たけるっ…たけるっ…!」
「____っ、いい子だ。いい子にはご褒美をやらなきゃな」
「あ…ああ、ぁっ…!」
狙いを定めた楔が私の体を引き裂いていく。
ドロドロに溶けていたはずのそこは、生まれて初めてのそれを激痛と共に受け入れる。
「んぅっ…や、あぁっ…!」
「っ、力を抜け。それじゃあ半分も入らねぇ」
「やっ、ムリぃっ…!」
「無理じゃねぇ。俺の目を見ろ!」
「うぅっ…んむっ…!」
グイッと顎を引かれると、痛みのあまりはくはくと声にならない息を吐き出す唇ごと塞がれた。助けを求めるようにしがみついた私の体をすぐに力強く包み込んでくれる逞しい腕。そうしてまるで食べ尽くすかのような激しいキスをしている間、彼はずっと私の瞳を見つめ続けていた。
大丈夫だ、俺を信じろと言っているかのように。
「ん、あああぁっ…!」
ズクンッと全身に走った衝撃に、彼と私が完全に一つになったことを自覚する。
ようやく唇を離した彼は、ほとんど半べそ状態の私に蕩けるような笑顔を見せて、顔中に甘いキスを落としていった。
それだけで愛されているのだと錯覚できて、たとえ今夜限りの夢だとしても幸せだと思えた。