誰かを護れる、そんな人に私はなりたかった。
脚力を活かし前に進む。
黒豹は1歩も動かず、私に向かって鎌を振り飛ばす。
意外にも長い鎖が自由自在に動き回る。
「おいおいどうしたヨ!!
俺に近づくんジャなかったのかァ!?
逃げてッといつか捕まるゼェ!?」
ヒュンっと飛んできた鎌を躱す。
だが……。
『……チッ、』
鎌が私を追いかけるように矛先が変換されていた。
咄嗟のことに反応出来ず、左腕に刃が食いかかった。
『……グ……ッ!!』
骨までは到達せず、少し切り裂かれた程度。
アイツ、飛ばしたままでも操作が出来るのか……ッ。
左腕は……痛むが、動かない訳じゃない。
まだ、いける。
「クククッ、次はどこを切って欲しいんだぁ!?
おら!!もっと楽しませろよ!!」
このままじゃ追い詰められる。
なら……
『……そろそろ反撃開始といこうか。』
黒豹が鎖鎌を振り飛ばす瞬間……。
ここだッ!!!
私は、思いきり前に足を踏み出す。
「あァア!?」
『お前の武器は、相手の座標目掛けて振り飛ばす。遠距離攻撃にはうってつけだ。
だが、1つ欠点がある。』
「んなモン……ッ、」
『その鎌、左右には動くみたいだが"前後"は苦手みたいだな?』
通常は振り飛ばすだけだが、黒豹は振り飛ばした後に追撃させる技も習得している。
しかし、"前後"となると話は別だ。
そもそも、鎖鎌を飛ばす際には手首を利かすことが絶対条件。
ならば振り飛ばした時、急に相手が前方に来たらどうなるか。
飛ばしている最中に無理やり照準を変更すれば、突如鎖鎌の力は無くなり、鎌が床に叩きつけられる。
前後に逃げた相手に攻撃する術は、例え技術があろうと不可能。
だから、あの鎖鎌に当たらないようにするには……。
『前に出れば問題ない。』
距離3m……
黒豹が鎖鎌を引く。
2m……
だが、もう遅い。
1m……
『終わりだ。』
ダガーを振り上げる。
刃が皮膚を切り裂き、黒豹の鮮血が飛び散る。
……はずだった。
だが、私の頬に付いたのは……違う奴の鮮血だった。
『……な……ん、で……ッ』
腹部を切り裂かれた"黒鮫"は、床に倒れ込んだ。
「……ひょ……う、に……げて……ッ」
そう途切れ途切れに呟かれた言葉は、私の心を深くえぐった。