【完】『そろばん隊士』幕末編
「ともあれ、それがしは伊東どのではござらぬゆえ、実相は分からぬ」
と小野は言った。
一頻り語らってから小野が去ったあと、
「面倒なことになったな」
と岸島は小さく呟いた。
勘定方で小荷駄隊長だが、まだ監察も兼務である。
「…これは調べねばならぬのか」
もはや長年の相棒のようになりつつあった徳田に振ってみた。
徳田は、
「なれど調べるにも内偵は怪しまれましょう」
と、岸島が内偵に向かない気性であることを指摘した。