【完】『そろばん隊士』幕末編
すると声に気づいたらしく、中から人が出てきた。
「…岸島くん」
出てきたのは斎藤一である。
「いったい」
「いや火急ではないが、ちと話がありましてな」
後ろには原田もいる。
「伊東先生は不在です」
「…居留守じゃねぇだろうな」
原田が探ろうと身を乗り出した。
「原田どの、伊東どのが不在ならば仕方あるまい」
また改めて来れば良い、と言った。
「しかし伊東甲子太郎が長州と繋がってるって話は、どうやって調べるんだい」
「それはそれよ」
別に口論というほどではない。
が。
もともと岸島は声に張りがあるところに来て、原田は小声でも筒抜けになるほど声が大きい。
二人の話の内容は、周りの通りすがりの町衆の耳に嫌でも入るほどであった。
「…ご無礼いたした」
岸島たちは静かに去った。