【完】『そろばん隊士』幕末編

下僕から聞き出した伊東の屋敷に近づいた。

「いかな下僕でも嘘は言うまいが、誰か隊士が出てくれば間違いはない」

原田は変に用心深い面がある。

そのとき。

門から出てきたのは、袖章のない羽織をつけた阿部十郎である。

「…阿部どのも、か」

岸島は伊東の意見が意外と隊内に浸透していることを察した。

「隊士が出入りしている、間違いはなかろう」

ようやく岸島は動いた。

「ごめん」

岸島は門に立つと、

「伊東どのはご在宅か」

と、あえて声高に呼ばわった。

「堂々と正面から行けば、相手も無体はするまい」

というのである。



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