【完】『そろばん隊士』幕末編
◆23◆

屯所に戻って報告だけを済ませると、岸島は勘定方の詰所に戻ろうとした。

すると近藤が、

「岸島くん」

と、どういうわけか呼び止めた。

「局長、…何か、ございましたか?」

「いや、実はな」

と小声になり、

「例の積み立ての件だが、あれは実は下手人はおれだ」

と耳打ちした。

岸島は思わず瞠目し、

「それは、まことにございますか」

重々しく近藤がうなずく。

「あれに手をつけてはならぬというのは知っておったが、どうにも所司代や奉行というのは人の金で遊ぶのが好きなようでな」

と言い、

「それでおれの方で立て替えたのだが、ご公儀からはまだ支払いがない」

そうしているうちに土方が岸島に監査を命じ、そこで露見した…というのである。

「しかしそれなら会津様に借財を申し込めばよろしきこと。積み立ての金子に手を出すというのは、かつて河合どのが腹を召したときとよう似ておりまする」

岸島はずけりと言った。



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