姫様と魔法のキス
レゼがその紙を開いている頃、ニカをトニーに預けた父王はレゼについて思い浮かべていた。
レゼから話を聞いた後会場に向かうまでの間、どうしたら国同士の対立を激化させず穏便に事が済むかを考えていれば、レゼから一つの提案があった。
それは、父王が深々と頭を下げる姿を会場で他国の王族や貴族に見せることだった。
一国の王が頭を下げることなど、絶対にありえない。
王こそが絶対な存在であり、王より偉いものなどないからだ。
そのため、婚約破棄に対してそれ程に深い謝罪を受けたにも関わらず許すことなく反発しようものなら、その国自体の器の小ささが露見され、会場にいた他国の王族や貴族たちの反感を一気に買ってしまう。
そうなっては他の国への侵略を進めようとしているドヴァー国にとっては都合が悪いので、それ相応の寛大な姿を周りに見せる必要が生まれてくる。
そこを利用しようとレゼは考えたのだ。
さらには婚約を破棄する理由として、ドヴァー国がニカの魔法を使って国を侵略をするという疑念を挙げたことで、ドヴァー国が今後実際に侵略を行う前にその噂が広まり早々に他国に警戒されるのは、ニカを手に入れられないことよりも危険であるとアロガンに考えさせた。
そうなると疑念を完全に払拭する必要があり、それにはニカとの婚約破棄をドヴァー国側から言い出すことが1番の手になるのだとレゼは考え、父王に助言したのだった。
レゼの目論見通り、エンガンは事を荒立てることなくニカとアロガンの婚約を自分から破棄した。
これで一時はドヴァー国からアジーン王国への干渉は減るだろう。
ホッと一息ついた父王は、ニカになんて言い訳をしようと考えながら肩の荷を下ろした。
「貴殿の優しさと聡明さを讃える」
その言葉が書かれたその紙をたたみ直すと、レゼはそっと胸ポケットへと閉まった。
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