東の空の金星
私は唖然として三島先生を見つめ返す。

「自分で気づいてなかった?
余計な事を言っちゃったかなあ。
でも、藤原さんはダメだよ。
あの人の心の中には奥さんがずっといる。
もう、亡くなって5年でしょ。
まだ42歳なら新しい伴侶を見つけて、新しい家庭も持てるよね。
でも、あの人はいくらお見合いを勧められても見向きもしない。
院長は会うたびにオススメの美人の話をしてるよ。
あの人は妻に先立たれていて、再婚だけど、
金持ちだし、仕事も出来て、子どももいないから、
けっこう、いい条件の女性を勧められてるはずなんだ。
シマちゃんより、オトナで、美人で、
昔の奥さんみたいなよく出来の、あの人に釣り合ったひと。
でもね。ひとりでいる。
シマちゃんには無理だよ。
シマちゃん、僕を見てよ。
きっと僕と一緒にいる方が楽しいと思う。」

「…なんで、そんな事を言うの?」

パフェのソフトクリームが溶け出している。

私はガタンと立ち上がって洗面所を目指す。

ダメだ。

こんなところで泣くわけにはいかない。

「え?シマちゃん!ごめん!
傷つけるつもりじゃなかった!ごめん!」と声が追いかけてくる。

私は「お手洗い」と書かれたドアを開けて洗面台の前でうずくまる。
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