どきどきするのはしかたない
・プロローグ
グス、ズ、ズー…グス…、ズー…はぁ。……ふぅ。
「…花粉症か…」
…え?…ズー…グス。びっくりした…人、居たんだ…。
「風邪か?…」
な、に…隣の人…独り言?…タイミングからして、私に言ってるの?みたいに聞こえるんですけど…。……はぁ。
…カチカチ。……フゥー。
あ、煙草の匂い…。
ベランダを隔てる壁の向こうから漂って来た。
そちらはベランダで一服ですか…。
こちらは…アルコール摂取中です。ちなみに花粉症ではありません。
「…はぁ」
カツン…。大して奥行きのないベランダの外枠の端にアルミ缶を置いた。
「…フゥー、…。こんなところで…、冷えた身体で…、そんな甘ったるい物飲んで…。ずっと居たら、気がついたら風邪ひいてるぞ…」
え、…やっぱり。これって私に言ってると思う。だったら、…言い返してみようか。
「…はぁ、…これ飲んだら、部屋に入るから平気なんです」
冷えた身体…雨に濡れた事を知っている、…泣いている事も多分解っている。誰とも解らない相手に思わずむきになって言葉を返してしまった。全く関係ない人なのに。こっちの事情を解ってるような事を言うからだ。……大きなお世話、なんです。
甘いカクテルだと解るほど匂ってるかな…。何度も溜め息ついてたから…ふぅ、はぁ、クンクン。はぁ。……雲が切れてきた…。月が、顔を出した。
風が吹いている。雨上がりで少し湿っていた…。
「フ。…フゥー。…そうか」
…。
ん?部屋に入ったのかな…。
そう言えば、お隣りさんて、どんな人なんだろう…。会った事無かったかも。…男性だったんだ。
「…ま、忘れる事だな」
わ゛っ。え?居たの?…何…何言ってるのよ…何、知ってるって言うのよ…。
「忘れるとかじゃないです。か、風邪です。いえ、花粉症ですから」
私も何言ってるんだろ。これでは言ってる事が頓珍漢になる。
「フ。…それは、お大事に。治る薬が見つかるといいな…フゥー…」
何?え、何…。
…。
今度こそ居なくなった?話さなくなっただけ?…居るのかな…。
はぁ…、適当に言い当てたからって…何も知らないくせに…いきなり何言ってくれてるのよ…。
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