どきどきするのはしかたない

…やっぱり。
そんなに気にして見た事は無かったけど、部屋の入り口にある表記なんて、部屋番号しかない。
名前を入れる箇所なんて無い。
うちは502で、当たり前だけど隣は503…だけ。
だから、名前なんて解らない。
私だって特別に名前を表記している訳じゃない。


帰って見ると、ドアのレバーに白い袋が掛けられていた。…また、袋…。
この状況だけ見たら、何だか不審物。心当たりが無ければ、気持ち悪いと思うのが普通だ。
だけど、これを見て気持ち悪いとか、変なストーカーが居るのでは、とは全く思わなかった。
多分、これを掛けたのはお隣りの人だから。そう思って疑わなかった。
だけど、それを気持ち悪いと思わないのかと更に突っ込まれたら…。
二言三言、話はしたが、顔は知らない訳だけど。気遣ってくれたような話をする人は、悪い人だとは思わなかった。
だから大丈夫と思うのは…単純なのかな。

掛けられてある袋を取り、中を確認した。
取っ手の付いた小振りの紙の箱が入っていた。
これはショートケーキの類いかも知れない。そういった物を入れる箱だ。
今回もお店のレシートが入っていて、裏にメモ書きがされていた。
…いつも中身の値段が解ってしまうのだけど…。それを特に気にするタイプでは無いらしい。

『“風邪”はぶり返していないのか?』

…どういう意味。あれから雨に濡れた覚えはない。
この言葉に深い意味が含まれているのかしら…。
ぶり返す風邪って…。
袋を持って部屋に入った。

これはいつ掛けられた物だろう。
当たり前に仕事をしている人なら、定時に終わる事が可能な公務員のような人?
一般の仕事なら、私よりも先に帰っているような職業?
それとも、仕事の途中で寄ってるって事?
企業により、勤務体制にも色々あるから一概には解らないけど。
あー、在宅っていうのもありか。

今日のこれは生ものだもの。保冷剤が沢山入っていたのは帰宅時間に対する気遣いだろう。
レシートを見れば、私の帰宅時間の少し前に購入されているようだ。
これは、私のだいたいの行動を知っているって事になりはしないだろうか…。まあ、そこそこ真っ直ぐ帰ればだけど。
お隣りさんなら、解っている部分もあって当たり前かも知れないか…。

最初のカクテルの缶くらいで終わっていたら、そうでもないけど…。
これからもずっと続くようなら、まさかの、ストーカーに発展、って事も無いとは言えないかも。よね。
私が、チョコとかメモとか、返したからかな。
それが変に親しみを持たせてしまったのだろうか。
そうなるとこれ…やっぱり怖いんですけど、…どうしよう。
受け取らずそのままにしておくのも、それはそれで怖い気がする。
お礼は言っても、もういいですよっていう事は言える事ではない。
続くようなら…どうしよう。
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