どきどきするのはしかたない

んー。取り敢えず、中に。このまま置きっぱなしにしておくのも…、夜はまだいいとして、日中強い日差しで温まって、缶が破裂しないとも限らない。
それこそ、大きな破裂音でもしたら、ちょっとした騒ぎに成りかねないし。
取り敢えずは、部屋に入れておく事にして、テーブルに置いた。
いや…、このままだと冷えた物が温まり、良くない。…やっぱり冷蔵庫か。

板の向こうは同じように室外機があるのだろうか。それともずっと先の端にあるのだろうか。

このマンションは部屋の造りが交互になっている。
どう交互かというと、例えば1階を例に出して説明すると、正面左から1DKの部屋が二つ、その隣が、広めに造られた1LDK。つまり倍広い造りの部屋になっている。
それが2階になると左が広めの部屋、それから二つが1DKの部屋になる、といった形で階毎に左右部屋の配置が換わるのだ。
私の部屋は5階の左から2番目、だから隣は広い部屋になる訳だ。

隣の人が単身者なのか、妻帯者なのか、全く知らない。ましてどんな人物なのかも。
ベランダでした声は男性だった。
これは隣の人がくれた物だと思って、疑いもしなかった。

お返しなんてつもりもなかったけど、室外機の上に置かれていた物を取り込んだ事を知らせるメモを書いた。
まず隣のベランダに手を伸ばしてみた。手探りではよく解らないが、何かに手は触れた。
…あまり気持ちのいいものでは無いが。
板の縁を掴み、可能な限り身を乗り出し、確認してみた。

…あった。室外機はこっち側にあった。
それにその上に小さい黒い陶器が見えた。多分、灰皿だと思う。
何も、吸い殻も無かったから、その都度きちんと始末しているのだろう。
ハート型のそれは縁が一箇所だけ丸く小さくえぐれていた。…貰い物なのかな、…可愛い。

ドキドキしながらメモを置き、ウエイト代わりにその灰皿を置いた。
何も無かった時の為にと思っていた重し代わりの箱のチョコは、そのまま奥側に置いておく事にした。
ビターチョコだけど、どうかな。

ふぅ。思いの外、怖かった。室外機の上に乗るなんて初めてだ。バランスを崩したら、下の車目掛けて落ちていく訳だ。
この高さだ。車が多少クッションになったとしても、多分確実に死ぬんじゃないかと思う。車が無い時なら確実かな…。
無鉄砲も大概にしておかないといけない。
何もかも終わってからゾッとしてそう思った。

そうだ、お礼なら、玄関から行けばいいものを。
だけど、何故だか、それはしたくなかった。
ベランダ越しに渡された物だから、同じように、こっちも正体が解らないまま返すのがいいと思った。
チョコではちょっと安かったかな。
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