どきどきするのはしかたない
「涼葉、ちょっと、ちょっと」
「え、何…」
「いいから、ちょっと来て」
もう、…休み明けから何…。
ロッカールームの隅まで連れて来られた。
「あのね、フフ。見ちゃった」
「…何を?」
フフッて…何か…嫌な予感…。
「課長の初スキャンダル。あ、勿論、一課の課長の事よ」
…ドキ。
「月曜の夜なんだけどね」
…まずい、…一緒に歩いているところを見られたのだろうか。
派手に横断歩道で声をあげたところも?
まさか…、ずっと跡をつけて、課長のマンションに一緒に入って行くところも?
でも、この様子だと、それはちょっと違うみたい…。
「フフ、聞きたい?知りたいでしょ?」
ゴク。勿体振らないで。聞かないって言っても言いたいんでしょ?
「多分、時間帯から言って、課長は遅くまで会社に居た帰りだと思うのよね。見掛けたのは会社に近い場所だったから」
…だから?
「歩いているところを見ちゃった。あ…女の人と一緒にねって事よ。一人で歩いてたって話題になんないでしょ?あ、こっちはね、デート、してたんだけどね」
それはこの際どうでもいい。女の人の話は余計な事が入り過ぎる。自慢も入れつつ話したいらしいから。
それで、肝心なところよ、誰と歩いてたっていうのよ。
「私はね、会社の近くは歩きたく無いって言ったのよ?誰かに会ったら面倒臭いから」
…今の話の方が面倒臭いのよ。…早く。話が変わってるのよ…。
人をこんな隅まで引っ張って来ておいて。時間が無くなるでしょ。
「そうね、彼との事、噂になったら面倒だもんね」
聞いて欲しい部分を無視する訳にはいかない。この程度の相槌は必要。
だから、早く…。
「そう。色々根掘り葉掘り聞かれるの、面倒よね。フフッ。
あっ、そうそう、違うじゃない、それでね、課長なんだけど…綺麗な人と腕を組んで歩いてた。お嬢様みたいな感じのね、ちょっと気の強そうな美人だったよ。…そうね。私達よりは歳は上かな〜。美男美女って感じで、凄く似合ってた。
ね、凄くない?こんな情報、今まで無かったでしょ?やっぱり上手くおつき合いしてたって事なのかな。夜遅いし、逆に会社近辺て場所が課長もどこか気が緩んでたのかなぁ。
最近の知り合いっていうより、雰囲気からして、おつき合いは長そうな感じだったよ〜」
…あの時だ。うちに来るまでの間の事だ。…多分。…送って行っていたところとか。
「あ、ねえ?…涼葉?ごめん、ショックよね。こんな話、しちゃって。
でも、ほら、ただ歩いてたところを見ただけだし。腕組んでたからって強い拒否が難しい相手で、何か仕事関連で送って行ってただけかも知れないし。上の人のつき合いって色々あるだろうから。実際、関係性なんて解んないじゃない?
…ごめん、涼葉…。
ねえ、じゃあ、仕事しよ?あ、大丈夫、私、誰にも言わないから」
私がメールをして、…誰かと居ると解って、その辺りの事だ。別にショックなんか無い…。ショックなんか。
ただ知ってしまった状況にドキドキしただけ…。