どきどきするのはしかたない
「ん?これ…涼葉の晩御飯はかに玉か?」
「あ。あー、…恥ずかしい。これは、蟹もどきかに玉です」
「んー?」
「蟹のほぐし身ではなく、冷蔵庫にあった…蟹風味のかまぼこでパパッと作った物です、これ」
催促され慌てて作った代物です。
「なあ、涼葉、俺、これが食べたい」
「え?」
課長から渡されたお惣菜はまだ温かくて、…私の作った物なんかと比べものにならない物が入っていた。
それをお皿に出していた。
「こんな…私のなんて滅相もない…課長は美味しいこっちの物を食べてください。今、ご飯を装いますから」
お箸を置き、お茶を冷蔵庫から取り出しグラスに注いだ。
「いや、これがいい」
「もう冷めて固くなってます。それに口に合うかどうかも解りませんから。課長はこれを」
「嫌だ。涼葉が作った物の方を食べたい。これが俺が初めて食べる涼葉の作ったご飯だな」
…あ、課長。嫌だ、とか。
「とにかく腰掛けてください。一応、軽く温めますから」
「あ、うん」
はぁ、こんなお粗末な物…。デパ地下の惣菜と比べたら食べられないでしょうに…。
温めている僅かな時間、変に静かだった。
「作ったのに、何故、食べてなかったんだ?」
あ、…ハハハ、はぁ。…なんて言おうかな。考え事をして悩んでいたとか言う訳には…。
「え?はい。なんて言うか、今、温めてますけど、暑いから、熱い物はちょっと、と思って、冷めるまで置いてました」
「あぁ、それでか。その間は、これを飲んでいたって事か」
え?…あ、あぁ、カクテルの缶ね。
「これはこれで随分温くなってるみたいだな」
「途中まで飲んで、ちょっと…、嫌になって放置です」
水滴が付いて流れ落ちたのだろう。缶の周りのテーブルが結構濡れていた。
「ハハ。まあ、すきっ腹にアルコールを流し込むのは良くはないな」
「はい。あ、…温まりました」
課長、本気で食べるつもりなのかな。