どきどきするのはしかたない

解らない…解らない。だから恐い。何もかも、無くなってしまうかもって思っているから踏み出す事が恐いんだ。…自分が可愛いんだ。狡いんだ…。

あんなに好きだったから、好きに間違いないじゃない、と思っているの?
して来た事があるから好きだと思っているの?
憧れは本気の…継続して好きとは違うの?…ううん、好きだもの。好きだから…。
そう思おうとしている?…。
…はぁ、また、頭を冷やす時間、……今度は長く貰おうかな。
自分で自分が鬱陶しい。こんな事お願いしたら、何故必要なんだって、聞かれそう。もう要らないだろうって言われる…。何故の部分、きっと、問われる…。それに…簡単に気付かれてしまう。
課長は、ちゃんと言葉でも行動でも好きだって表してくれている。私の好きは…。
私は、本の小さな、課長に対して持ってしまった疑心が許せないの?どこかもやもやして納得出来ないの?
自分のした事は包み込んでもらって…自分でも完全に棚に上げて置いて……。
好きが解らない。
はぁ、どうしたらいいんだろう。
こんな気持ちが底にあるから、好きだという表現が出来ないんだ。
表現出来ない好きって…。
…でも、答えは出てるって、どこかでは思ってる。それを出さないようにしまい込もうとしてる…。

「あ゙~ん!もう!嫌ーーっ!!」

……パタパタ…、カチャ。パタン。
ドタドタ…。カチャ。
え?
パタパタパタ…。
ぇえ?

「おい、どうした!変質者か!どこに居る、大丈夫か、愛徳」

…。あ。何、これ…。何事?

「へっ?あ、さ、七草さ、ん?…あ、え゙っ、何…何してるんですか!」

「何って。愛徳の部屋から、あ~ん、もー、嫌、って、妙な声が聞こえたからだ」

「だからって、何です、え、嘘っ…。そんなに声、聞こえてるんですか?…」

恥ずかしい。今更口を押さえた。

「夜中だから余計響いたんだろ。そんな事より、こんな時間なのに、まだ鍵してなかっただろうが。どういう事だ。あれ程直ぐしろって言ったのに」

「…そんなの。忘れてた以外に無いじゃないですか。それより、だからって、何でまたうちに入って来るんですか」

「だから、妙な声がしたから、心配で見に来たって言ってるだろ」

…クッションを抱いてソファーに座る私と、その前に仁王立ちしている七草さん。

「…え…い、嫌ーっ!七草さん、パンツ、パ、パンツー。…裸、裸。あっち行って!」

やっと状況が飲み込めた。

「ば、騒ぐな。俺はいいんだ、いつもだから、暑いし。それに…見てるだろ。それより、そっちこそ…」

み、見てるからって、良くない、これは変質者よ…え?私?……あ゛っ。

「いっ、キャ…」

「うわっ、もう、一々奇声を上げるな。怪奇現象かと思われるだろ、あ゙、ごめんごめん。大きな声も大概にしないと、な?まずいだろ。で、そっちこそ、…そんな格好だ」

悲鳴を塞ごうとして隣に飛び込むようにして座り、手で愛徳の口を押さえた。それを離した途端に…また悲鳴を上げそうになった。

「あっ、キャ…」

「だから、…もう、なんか無いのか、身体を隠す上着とか…」

塞いだ手を離しながらキョロキョロしている。

「あ、それ、そのハーフケット」

七草さんの腰の下になっていたタオルを指した。

「あ、おお、悪い、これか。ほら」

肩に掛けられた。前を合わせるように巻き付けた。隠せって…暑いんですけどね。

「…私が私の部屋で…キャミソールと短パンで居ても何も問題は無いんです。それこそ、裸で居たって。…暑い時はいいんです」

問題はノーブラだったという事だ…。

「まあな、それはそうなんだけど…」

そっちこそ、何かで隠して頂きたいのに…。

「…で、…どうして」

「あ?あぁ、妙な声がしたからって言っただろ?あんな声、何事かと心配するだろ」

「…」

妙な声を出してすみませんでしたね…。あ…もう一つの隣の部屋、501の人にも聞こえたって事かな……?
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