どきどきするのはしかたない

あっ、これは凄く久し振りな気がする。

会社から帰るとドアレバーに袋が掛けられていた。
…七草さんに違いない。
レバーから外し、取り敢えず、部屋に入った。

椅子に腰掛け袋を覗いた。
小さい白い箱。見た目よりずっしり重い感覚だ。
保冷剤が沢山入っているようだ。
取っ手の部分を持ち開いてみた。

あ…変わった形。個性的なモンブランだった。
キャー、モンブラン、好きだ。まあ、基本何でも好きではあるけど。

小さいレシートを取り出して見た。

『お帰り。この秋の新作だってさ。有り難く食ってくれ』

フッ、クス…変なの。今までなら、意味あり気な事ばかり書いていたのに。これって凄くシンプル、普通だ。
普通の事を変だと思う私の感覚が、もうずっと変になってるって事なのかな。
これは七草さんらしくない。

食後に頂きますかって、普通ならそうなりそうだけど。
…紅茶、入れよう。
これが晩御飯でもいいくらいだ。とにかく、食べてしまおう。

『美味しく頂きました』
袋にメモを入れ、503のレバーに掛けておいた。

暫く会いませんと言ってから、本当に会っていない。冗談みたいに、俺から会うのは勝手だって、来るんじゃないかと思ったけど、それも無かった。
新作って…、もう秋も終わりですよ?…。確かに、この秋の新作に違いは無いのか。
発売されてから日数は経ってるけどね。
美味しかったですよ…凄く。


課長が結婚するって聞いてから1ヵ月が過ぎようとしていた。
いまだ、何も変わらずのままだ。終わったという連絡は無い。
お嬢さんと一緒に暮らしているのか、形だけのモノなのか、一切解らない。

どうなっているのか確かめようともしない私は、信じて無いからだと思われているのだろう。それとも確かめようとしない事が信じていると思ってくれているのか…。
…普通なら、好きな相手が結婚したら、もう終わりって事だから。

ピンポン。

…え?…誰?
< 157 / 171 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop