どきどきするのはしかたない

「言わないと、寝かさないぞ?」

「…解りました。では…山本課長。…フフ、どうですか?私、今度から山本課長にします」

今の課長には意地悪が過ぎたかな。

「涼葉…」

「区別、つきますよね?」

「はぁ…もう寝る。おやすみ、愛徳」

…あ、今、…愛徳って。…。呆れたんだ、だからわざとだ。

「おやすみなさい…山本課長」

絶対、わざと意識して愛徳って言った。

「…もう、…涼葉。せっかく仲直りして、また始めたんだ、もっとだな…。涼葉?おい、寝たのか?涼葉」

背中を向けて寝ていた私を課長は揺り起こそうとする。

「クス…フフ、…フフフ」

「…涼葉ぁ、起きてたのか?…」

「はい。そんなに直ぐには眠れません。ごめんなさい。課長とは、あっ。ん゙、もとい。晶仁さんと、こんなやり取りはした事がなくて、楽しんでしまいました。晶仁さんだって、さっき、わざと愛徳って言いました。だから、ちょっと拗ねてみました。
私も名前で呼ばれていて、ずっと嬉しいですから。あの時…、今から涼葉って呼ぶって言ってくれてから、ずっと涼葉ですから。嬉しいんです、いつも。
晶仁さん。…私。…人として…課長に勉強させて貰おうと思っています」

私達の結末はどうなるか解らない…。勉強だと思って…信じてみます。

「涼葉…。あの日みたいに、一杯しがみついてくれないか…。シよう?」

「ぇえ?…」

「涼葉は戻って来た…俺は…可愛くて堪らない。…駄目か?…涼葉…」

「課長…」

これは課長の正直な態度…ですよね。

「…また、課長って…」

「あ、…これは、…あの日みたいにって課長が言ったからです。だから課長なんです」

こういうやり取り、もっと上手く出来るようになれるかな。…駆け引きも。

「ん…好きだ、…涼葉」

もう肌を食まれている…。

「…私も…好きです」

「はぁ、何だかドキドキするな…」

「はい、あの日みたいに、凄くドキドキします。…晶仁さん」

何だか冷静にドキドキしている。そんな状態って…。私は…冷静に冷めているようだ…。

「ん。涼葉…旅行のやり直ししようか。年末年始なんてどうだ?無理かな…」

「やり直しと言うより、年末年始は課長の部屋がいいです。私…お節料理作って来ます!」

「…それは…ハハハ、間に合うのか?来年か?再来年の話かなぁ?…」

「あ〜…即、心、折れました…。課長がそんな風に言うなんて…だったら来ません。…いいですよ?…お隣りさんとごろごろ仲良く過ごしますから…」

「…涼葉。そんな、はらはらさせるような事、冗談でも言うな。悪かった、さっきのは冗談で言ったんだ、ごめんごめん」

「解らないですよぉ?」

「…解った…わざとだろ?」

「え?」

「今のは俺をわざと妬かせて煽る為だったんだろ。解った…そういう事か。なら…任せておけ」

煽ったのでは無い、素直に言っただけですよ?

「ぁ…旅行に行くなら…七夕祭の…仕切り直しがいいですね」

怪我を負うような事はもう無いのでしょうから…。旅行は一年先だって別に構わない。

「…いや、まずは、美味しい御節を作って欲しいな。…有り難く…頂かせて貰うから…な?」

「解りました。買って置きます。…ね?」

「…涼葉…拗ねるな…ごめん。…作ってみてくれ?涼葉のが食べたいんだ」

「買った方が絶対“美味しい”でしょうから、作るなんて言いません…もう、帰ります!」

「涼葉…何言ってる。もう夜中じゃないか」

「夜中でも、歩いてなら帰れます」

…。

「…引き止めないんですか?課長」

…。

「課長…」

「引き止めないよ。涼葉が決めればいい」

…。

「…もう…寝ます」

すかさず手を掴まれ引き戻された。

「そう言うと思ったよ」

伏せ込まれた。…え?

「涼葉がちょっと狡く成長したから。…帰るなんて…しないし、俺も帰るとは思ってないから…。涼葉…仕切り直しだ…」

「…フフ」

「…ん?どうした」

「また言い返して、揉めたら、永遠、このやり取りが続くのかなって」

「いや、そしたら、雷が鳴る…俺の味方だからな」

「偶然ですから、…それ」
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