どきどきするのはしかたない
「ほっとしてくれたか?…涼葉?」
「あ、は、い?」
「俺はラッキーだったと思ってるよ…」
少し、身体に深くもたれるようにされた。アルコールの影響もある。動悸が激しい。
「あ、…何がですか?」
「結婚して無くて。彼女も居なくて。その状態の時に涼葉が入社して来てくれて」
「彼女が居て、結婚もしていたとしたら、課長的には無かったですか?」
「無かった。当たり前だ」
う。返事、早いな。でも、それが誠実だということにはなる。課長がタイプの人に会っていなかった時に出会えた私はラッキーだった…。
「…はぁ」
「ん?そこは、別れて奪えって?」
「いいえ。それは駄目です。違うんです…誠実なんだなと思って。その、はぁ、です。
そこで、無かったと言わなかったら、私とは違う、また別の女性が現れたら、そっちに行くかも知れないって事ですから」
「そうだな。だけど解らない事だぞ?
口では無いと言っただけかも知れない。何が起こるか解らないぞ?鵜呑みにして胡座をかいていたら、どうかな…。
だから、俺をずっと好きでいてくれないと困る。
男だって、放っておかれて、構ってくれなくなったら、優しくされた人にホロッと行ってしまうかも知れない」
「甘えたいって事ですか?」
「あぁ、甘えたい」
…ボッ。言ってる事が甘い…。
「男の人も?」
というか、課長も?
「そうだ。甘えたい時もあるし、慰めて欲しい時もある。俺はな」
そういうモノなんだ…。
課長って、何でも平気って感じがするけど。
「外には見せない顔、見せられるのは大事な人にだけだ。涼葉、俺は涼葉の事が好きだ」
「…私もです。課長の事が好きです」
「涼葉…俺達は今から始められるかな」
「はい。私は始めたいと思っています」
拗ねて、素直にならないままではいられない。
身体を離されて向き直された。正面から肩を掴まれた。
「涼葉、好きだ、つき合って欲しい」
「はい。私もです。改めて、お願いします」
ゆっくり抱きしめられた。
これから…ちゃんと告白して、つき合うんだ。
「はぁ、うん。…よし。…寝るか。朝は早めに帰るから。
あー、隣に七草が居るだろ」
「あ、はい。そうなんです。私も最近まで知らなくて、ちょっと驚きました」
「なんだ。知らなかったのか」
「…はい」
「出入りしている時に七草に会ったからって、俺は大丈夫だ。そこは、そのつもりで居て欲しい」
「はい」
堂々としておけって事でいいのよね。バレてもいいって。
「涼葉、風呂使わせて貰っていいか。シャワー程度だ」
「はい、どうぞ」
眠っていてもいいからと言い、上着を脱ぎ、ネクタイを解くと、私を横たえさせ布団を掛けてくれた。
頭にポンと手を置き浴室に行ってしまった。
シャワーを使って戻って来た課長は、ベッドに入り、ゆっくりと私を引き寄せると腕の中に収めた。
起きていた私を、涼葉、と呼んで。
一緒に朝までなんて…、ドキドキして眠れないんじゃ無いかと思った。
…朝までぐっすり眠っていた。
目が覚めた時、課長はもう居なかった。
…はぁ…二人で居て、何もしなかった事なんて初めてだった。
今更だけど、起きてからも何だかドキドキして落ち着か無かった。
改めてだけど、おつき合いが始まったばかり。
だから、…何もしなかったのかも知れない、そう思った。