どきどきするのはしかたない

示談の事、どうしたらいいか解らなくて、課長を訪ねていた。
罪にならないようにするって、被害届だって、取り消すって事でしょ?…。

「…課長、課長の相手だった人、誰なんですか?
私、顔も名前も知らない…。教えて貰えないんです。
こんなのって普通じゃ無いですよね?」

「涼葉…」

「私は向こうの希望通り、書類に署名捺印して示談に応じなくちゃいけないんでしょうか。それが、そうする事が正しい事なんですか?
どうして、逮捕されないで、示談なんて事で…」

終わらせないといけないの…。

「涼葉、名前を何かで偶然知っても口外しないで欲しいと条件に入っている以上、知ったところでやり切れなくなるだけだ。
こんなやり方をするんだ。本人がどうとかでは無いんだ。
…はぁ、向こうは…親が政治家なんだ」

「あ…課、長」

「涼葉の気持ちはまともだ。それはよく解る。俺も同じ気持ちだよ。
相手はまともな事が通じる相手では無いと思った方がいい。
自分に好意的では無い人間は完全に排除する。そんな考えをする人間だと言う事だ。娘の為、自分の身を守る為なら何でもする。
俺の事…情けない男だと思ってくれても構わない。
これ以上、涼葉が怖い目に遭わない為にも、事件にはしない、示談に応じると返事をした方がいい。俺絡みだとはいえ巻き込みたく無い。涼葉が怖い目に遭うなんて堪えられないんだ。
納得がいかないのは解る。情けない俺の為だと思って承諾してくれないか」

「…課長、…聞きたい事があります。
課長の結婚話は、いつからあった話ですか?」

…。

「俺が課長になってからの事だ」

「では、私が課長と関係を持つ前からあった話ですね」

「そうだ」

…課長になってどのくらいの時の事だろう。

「では、私は、…私にはどういう思いであんな事…。勿論、後からですけど好きだったと言ってくれました。
私が入社した時から好きだったという事、言ってくれましたよね…。
その時、課長は課長でした…。結婚話はとっくにあった事になります…。
好きは、どういうつもりだったのですか?
…何だか、同じような事を繰り返し聞いているみたいになりました。しつこいですか?
でも、…自惚れだと思われてもいいです。敢えて聞きます。
普通、自分に好きな人が居るなら、結婚話ってその段階で断りませんか?
…好きは好き。関係は持った。でも、つき合っている状態かよく解らない。気持ちの確認が出来てないから、…解らないから…断らずそのままにしておいた。…結婚話は、課長にとって…条件のいい話だから…。
私が課長に憧れていた事なんて…単純だから、直ぐ解りましたよね…。
そんな…、課長に好意的な私とは簡単でしたか?」

「…涼葉、今のはどういう意味だ…」

「……はぁ。…自分に好意があると、はっきり解っている女は、簡単だった、そういう事です。
ご飯に誘ったその日にシた。
…私は、…そんな女ですから」

「違うだろ涼葉…」
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