どきどきするのはしかたない
言いたい事を遠慮なく言って、曲げたく無い気持ちを課長の為だと言って、無理に収めるような言い方をして…。
何だか凄く空しい…。自分の事が呆れる程嫌になった。全部…妄想、確証のない想像なのに。
課長に問い詰めたくせに、私の今までの好きだって、何だったのだろう…。
憧れの課長と関係を持って浮かれていただけだったのかな。こうなれた事でもうどこか勝ち誇った、満足してしまったのかな。私は課長に好かれているんだって。自惚れ?
…課長。男の人はどんな時も強いと思っていた。だけど、強いけど…、時に弱いんだ、…そう見せて、そしてやっぱり強い。それは…狡いんじゃないかと思う。
私が、男女の駆け引きを知らないだけ?弱いの?
「…初めから乗り気じゃ無かった俺は、結婚話はいつでも断れると思っていたんだ。
俺は俺の中で涼葉が好きで始まった事だ。だけど半年の間、涼葉の気持ちは解らない関係でもあった。…嫌では無いという事だけははっきり解っていたよ。
だから気持ちが解って、初めて断る事が出来た。
いつかははっきりしないといけないと思っていた。ずるずるほったらかしていた事を、涼葉が好きだと言ってくれた事で、断るきっかけにもなったし、言える勇気にもなったんだ。
断るつもりだったなんて、曖昧な事を今更言っても、体裁を調えた、調子のいい綺麗事に聞こえてしまうな…。
俺は優柔不断で、弱い人間だ」
やっぱり…狡いと思う。
「明日にでも、向こうの弁護士さんに会いますから。それで終わりです。
私には何も起こらなかった、何も無かった、そういう事です、そういう事になります。
凄く酷い事…、課長を傷つけるような事をずけずけ遠慮無く言ってすみませんでした。
言い訳をさせて貰えるなら、私はまだ自分本位なところがあって何事も経験不足で、…青いという事です。
すみません…もう帰ります。
示談の取り交わしが済んだら連絡します。おやすみなさい」
「涼葉、送るよ」
「大丈夫です。今は襲われる事はないでしょうから。
足も大丈夫です、しっかり歩けます。
…大丈夫です」
「涼葉。…俺達は、終わってしまうのか?」
え?
「…課長は……課長がそう感じたと言う事ですか?」
私が、言い過ぎたから?
言う事をきかない、従順じゃない女だと解って嫌われた?
「違う、そうじゃない。俺は思っていない。
ただ…帰ると言っている涼葉を、今このまま帰してしまったら、それっきりになりはしないかと思ったんだ」
「…おやすみなさい」
「あ、涼葉!」
急いで靴を履き、玄関を出たところで、動けなくなった。ドアにもたれて滑り落ちた。
…ターニングポイントがあるとするなら、今がそうなのかも知れない。…そうなら課長、引き止めて欲しい。
引き止めて欲しいと思っているのに、自分だって戻りもしない。そのくせ、帰ろうとしてるのに帰れない。
課長は引き止めたくても引き止めない。
私だって、課長任せにしないで、今自分からこのドアを開けて飛び込めばいいのに…。またそれが出来ない…。
振り向いてドアを開ければ間違いなく課長は居るのに。
…はぁ。もうこれは意地なのかな。
なんとか立上がり歩みを進めてエレベーターに乗った。振り向いても課長が出てくる様子も感じられなかった。ドアが閉まった。
携帯は震えなかった。