どきどきするのはしかたない

ピンポン。

「はい」

「…こんばんは…私…」

「…遅かったな。もっと早い段階で来ると思ったけどな。
解ったのか?」

…え?

「…よく解らなくなって。私の事は…どうなんだろうって思ったら、モヤモヤしたモノ、言ってしまいました。…どうしてたらいいのか、…もう、何だか解らなくて。
…薬、風邪に…効く薬。貰いに来ました」

「入るか?」

「…はい」

「その言葉の意味、解って言ってるのか」

「…はい。私なりの解釈で、です。でも、まだ…薬は、…貰うだけなんです」

「…解った。俺はそれでいい。その代わり、帰さないぞ。そういう事だ」

「…はい、えっ?」

あっ。
手を引かれ、引き込まれた。後ろで静かにドアが閉まった。
あっ、…。

「愛徳涼葉…、この時が来る事を、俺がどんな思いで待っていたか、…解るか。…解らないだろうな。課長しか見てないお前にとっては解らない事だ」

貴方の事は何も知らない。だから…解らない。

「私、今、解らなくて…行き場の無い気持ち
、抜けちゃって…さ迷ってて…抜け殻なんです…どうしようもない、…空しい抜け殻なんです」

「それは…自分の中で何か思うところがあるからだろ?」

「…はい、でも。それもまだ…、未練たらたらなんです。はっきりしなくても…好きだから。…たった今の事だから」

「俺は構わない。愛徳が自分の足で飛び込んで来たんだ。ここに足が向いたんだ。それが正直な衝動だと言う事だから、俺はそれで構わない」

今は利用すればいいんだ俺の事。気持ちがちゃんとなるまで。

「七草さん…」

「…運ぶぞ?…いいのか」

引き込まれた時から強く抱きしめられ、胸に頭を付けられていた。強く響いてくる拍動、熱を感じた。
その身体を離され、返事も何も…、抱え上げられてしまった。今は何も考えられない。だけど…これが…本当の意味の薬って事だ。今、解った…。

「あ…私、こんな女なんです」

虚しいからって…甘えている…。課長が好きと言っておきながら、実直な女じゃなかったって事だ。…流されようとしてる。やるせないからって……こんなのは駄目に決まってる。

「大丈夫だ。愛徳の事は知ってると言ってるだろ?本当の愛徳がどんな奴か知ってるから」


寝室は薄暗闇だった。
ゆっくりと下ろされた。

「…今まで、隣の部屋から、一度も甘い声がして来なかったのは救いだった…」

「…え?」

「自分の部屋では…、今まで一度も無かったよな?…課長と」

「あ、…え、それは、はい…」

そんな事…。

「それが俺には救いだったよ…」

ざわざわと掻き乱れるような…そんな…ドキドキがする…。
< 66 / 171 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop