身代わりペット
少しの間、抱き合う。

「……ん?」

なんだろう。

私達じゃない気配と、視線を感じる。

余韻に浸っていたいけど、その違和感の方にクルっと視線を回してみると、入り口の所に千歳含む数人のギャラリーが立っていた。

「……え!?」

私は淳一さんの腕から体を急いで離した。

「え!?なに!?」

「なに、じゃないわよ。余りにも帰って来ないから心配になって来てみたら……外まで会話が丸聞こえよ」

千歳が腕を組みながらこめかみの辺りに手を置いて、呆れた様にため息を吐いた。

後ろにいる数人のギャラリーが目をキラキラさせてうんうん、と頷いている。

「とにかく、おめでたいけどいい加減仕事に戻って頂戴。課長も、もう気が済みましたね?」

千歳が少し厳し目な視線を私達に向ける。

「はい……」

その迫力に、私と淳一さんが肩をすくめて返事をした。

「よろしい。みんなも色々聞きたいんだろうけど、後にしてね。仕事が先」

千歳がギャラリーに釘を指す。

「は~い」

千歳を怒らせると怖い、ってみんな知ってるから、異論を唱える人は私達含め誰もいなかった。

ぞろぞろと、みんなが自分の席に戻る。

その道中、千歳が私にボソッと「おめでとう」と耳打ちして来た。

「……ありがとう」

さっきとは違う、優しく微笑む千歳に私は密かに涙を流した。
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