俺様室長は愛する人を閉じ込めたい~蜜愛同居~
「なんか聞いた?」
いつもの大輔の声が上から聞こえて、塔子はチラリと大輔を見あげた。

「え?」
大輔の真剣な瞳とぶつかり、塔子はドクンと胸が跳ねあがるのが自分でもわかった。


「どうせ、すぐわかるだろ?」
誠の言葉に、大輔も小さく頷いた。

「塔子……」
話始めた大輔の言葉を遮るように、
「アメリカに行かれるんですか……?」
自分でも驚くぐらい、声が震えていることに気が付いたが、零れ落ちた言葉は大輔にも伝わったようだった。

『なんで、片桐主任が聞いてるの?片桐主任も千堂室長狙い?』
『片桐主任じゃ勝てないじゃない!』
『嘘―!その前にアメリカって何!』

そんな周りからの声に塔子は我に返り、姿勢を正すと頭を下げた。

「こんなところで申し訳ありませんでした」
踵を返して、ギュっと唇を噛み締めた塔子だったが、後ろから引っ張られた力に咄嗟に振り返った。

「ニューヨーク支社に来春から副社長としていくんだ」
振り返った塔子をグイッと自分の方へと引き寄せると、大輔は静かに言葉を発した。

「そう……」
なんとか返事をしたものの、塔子は目の前が真っ白になる気がして俯いた。

(やっと、やっと一緒にいられると思ったのに。私には話してくれなかった。人から聞くなんて……)

ぐちゃぐちゃになった感情を、口から吐き出すのだけはなんとか耐えた塔子に、不安げな声が響いた。

「塔子、それは今どういう顔?」

「どうって……」

「塔子はこの事を聞いても平気なのか?」
その大輔の問いに、塔子の中でおさえた感情の糸が切れるのがわかった。

「平気?本気でそんなことを聞いているの?私が平気だと思うの?人からなんて聞きたくなかった……。なんで言ってくれなかったの?私はそんなにどうでもいい存在だった?私なんて置いてどこにでも行けばいいじゃない……!」
塔子は、もう何を言っているか分からなかった。
涙が落ちるのも気づいていなかった。
< 142 / 147 >

この作品をシェア

pagetop