特別な君のために

ベルト着用サインが消え、機体がほぼ揺れずにまっすぐ飛ぶようになった頃、ようやくなるみも落ち着きを取り戻した。


「何で私が国公立大学と公務員にこだわるのかって話なんだけどね、私、ものすごく安定志向なんだ。ちょっとでも不安要素があるとダメなの」

「あー、わかる気がする。なるみって、すごくきちんとしていて、用意周到で、慎重なところがあるよね」

……だから、地べたから離れてしまう飛行機が苦手なのだろう、と思った。

「多分、なんだけど、うちの家庭環境に原因があると思う」

そう言ってから、ちょっと深呼吸して、もう一度私に向き直った。


「私が小学生の頃、お父さん、過労死しちゃったんだ」


全然知らなかった。

母子家庭なのは知っていたけれど、お父さんのことを聞くのは遠慮していたから。

私が妹のことを話さなかったのと同じく、なるみもお父さんの話を私にしてくれたことはなかった。

そんな理由があったなんて。


「……大変、だったんだね」

それから、なるみは当時のことを思い出すように、ゆっくり話しはじめた。
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