特別な君のために
「お父さん、証券会社に勤めてたんだけど、破たんしちゃって。それから違う金融機関に再就職したの」
「うん」
「だけど、新しい職場の上司が厳しかったんだって。ずっと残業続きなのは、お前の能率が悪いせいだって言われて、全部記録に残さないサービス残業。で、クモ膜下出血で倒れてそのまま……」
「悲しかったね……」
「泣いたよ。わんわん泣いた。一生分の涙がなくなったと思うくらい泣いた。でも、あとからあとから涙って出てくるんだよね。それで母ひとり子ひとりになっちゃったんだ」
それまでの、何の不自由もなかった暮らしが一変したらしい。
「社宅も出なくちゃならなかったから、住むところもない。サービス残業だから過労死って認定されないし、勤め始めてそんなに経ってなかったから退職金だってほとんどない。ずっと専業主婦だったお母さんには、仕事もない。何もなくなっちゃったの」
ふうっとため息をついたなるみが、寂しそうな微笑みを浮かべている。
私は、何と言葉をかけていいのかわからなくて、ただ、聞き役に徹するだけ。
「それで、お母さんの実家があるこの街に引っ越してきたんだけど、なかなかなじめなくてさ。私、すっごく暗い子だったから」