特別な君のために

五十嵐先生が緊張した表情で、私達を列に並ばせ、ステージ裏へと連れて行く。

薄暗いステージ裏の一角で、私達は息をひそめる。

モニターに映っているのは、今、歌っている団体。

ここも全国大会の常連校で、特に男子の歌声に定評がある。


みんな、このステージに立つために頑張ってきたライバル。

課題曲が終わり、自由曲のアカペラを堂々と歌っている彼らを見た。

次は、私達の番。私の立ち位置はだいたいこのあたり。

まずは笑顔で。ここで歌える喜びを精一杯表現しよう。


大きな拍手と共に、前の団体が戻ってきた。

みんなほっとした表情を浮かべて、私達にも軽くお辞儀をして去っていく。


「はい、次の団体さん、どうぞ」

インカムを付けたスタッフに誘導され、バリトンの男子から順にステージへ出て行く。

暗いステージ裏から、ライトが眩しい表舞台へ。

転ばないように注意しながらひな壇に上り、全体的な位置を調整する。


学校紹介と曲紹介が終わり、いよいよ私達の歌が始まる。

既に緊張はピークを通り越してもう、笑うしかない状態だった。

五十嵐先生も笑ってる。

唇で『たのしもう』『わらって』と私達に伝えてから、お客さんの方を向き、お辞儀をした。

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