特別な君のために
「いってきます」

「いってらっしゃい。薬、持った?」

「うん、大丈夫」


妹は私に謝ることができないまま、自分の殻に閉じこもってしまっている。

何が悪かったのか、まだ千春はちゃんと理解できていないのかもしれない。

お母さんは何とかして私に謝らせようと必死だ。

だからこそ、今、この家はとても居心地が悪い。

連休だというのにお父さんは仕事。納期が迫っている現場だと、連休なんて関係なく仕事を進めなくてはならないそうだ。


部活をずる休みして、私は駅前行きのバスに乗る。

十五分ほどで駅に到着。そこから歩いて約三分、生まれて初めてのネットカフェへ。


受付のお姉さんに学生証を渡して会員登録をしたあと、個室を希望すると伝えてみた。

だけど、連休中ということもあって、個室はあと一時間程度は空かないと言われてしまった。

仕方なく、受付近くのフリースペースで、自分の番号が呼ばれるのを待つことにした。


ふと周りを見ると、クレーンゲームが数台並んで置いてある。

その中の一台、カエルの軍人さんのぬいぐるみが積まれた機械に吸い寄せられた。

これ、私の心に住み着いているガチムチな鉛の軍人さんと同じ格好をしている……。

顔はカエルだけれど、そのぬいぐるみが無性に欲しくなった。
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