伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます

「三十七歳だなんて。おじさんじゃないの」

だけど、優しい人かもしれない。

「三十七歳まで独身だなんて、どこか性格的におかしいからよ」


伯爵はやたらに猫を飼っていて、猫を偏愛しているという噂もある。
噂では見た目は麗しいなんてことも言われているけれど、人前に出てこないのになぜそれが分かるというのだ。噂など信用ならない。きっと性格も容姿も悪い偏屈のおじさんだ。そんなところに自分は嫁がなければならないのだ。


「……お父様の、馬鹿」


窓辺に頭を押しつけ、ドロシアはこぼれそうになる涙を堪える。

傾いたメルヴィル家を支えるために、必死にやって来たつもりだった。家の修繕、食事の支度、掃除や洗濯。マギーだけでは手が回らないそれを、ドロシアは文句も言わずにこなしてきた。
貴族の娘というプライドはもちろんあった。でもそれを捨ててまでも守りたかったのは、家族との思い出のあるこの屋敷が大切だったからだ。

なのに結局は金持ちに売られるようにするしか道がなかったのかと思うと、悔しくて仕方ない。

(結局、女なんて男性の野心のための駒でしかないのよね……)

ドロシアは自分の存在価値にさえ疑問を抱き始めた。

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