その笑顔が見たい

「あ、翔ちゃんあれ聞いてたの?」

バツの悪さにやっぱり葉月の顔は見れない。


「先週は娘の誕生日だったから、うちに来てはづがお祝いしてくれたの。その時にワインは買って来てくれたよ」

ああ、円香さんの太ももにしがみついて、俺をじっと見ている可愛らしい女の子の誕生日だったんですねと心の中で呟く。


「…そうでしたか」

とんだ勘違いだった。
でも嬉しい勘違いに、胸をなでおろす。


「その様子じゃ、翔太くん、はづにまだ告ってないの? いつまで片思いしてんのよ」

背中を思い切り叩かれた。
その勢いで、太ももに絡みついていた女の子が俺の前に飛び出て来る。


「イテ!痛いっすよ」

そうだ、この人、こういう人だった。
すっかり記憶が蘇り、当時もこうして葉っぱをかけられていたことを思い出す。


「高校の頃からはづのこと大好きだったもんねー」


勘弁してくれよ…。
葉月の顔をチラッと見たら「もう、円香ー!」と今度は葉月が円香さんの腕をバシバシと叩いていた。

女性二人がじゃれあっている側でニコニコと笑っている男性は、大人の余裕を見せていた。
その男性と目が合う。


「やっと会えた」

そう言って右手を差し出して来た。


「すみませんでしたっ!」

自分の右手を差し出す前に深々と頭をさげる。


「ははは、問題ない」

そう言って俺の右手を力強く握りしめた。

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